タップ加工は簡単なようでトラブルが多く、基本的ながらも奥が深い加工です。
特にマシニングセンタでタップを立てる際は
「ステンレスにタップを立てようとしたら折れてしまった・・・」
「タッピングのプログラムがわからない」
など困るポイントもあるかと思います。
本記事ではマシニングセンタでタップを立てる方法と、そのコツについてご紹介しました!
タップ加工のプログラム【オークマ、ファナック】
マシニングセンタでタップを立てる際のプログラムをまとめました!
ファナックとオークマそれぞれのプログラムを解説しています。
同期タップ機能がついているマシニングセンタの場合は、切り粉を切りながらのタッピングが可能です!
同期タップは、古い機械でない限りは多くのマシニングセンタに搭載されている機能で、回転数の加減速に応じて送り速度を合わせてくれます。
ファナックのタップ加工プログラム
通常のタップのプログラム(オークマ)
同期タップ機能を使った引き抜きながらのプログラム(ファナック)
Q10.を指示してやることによって、10mmずつ切り粉を切りながらタップを立てていくことができます。
引き抜きながらタップを立てれば5L/Dくらいの深さであれば難なく立てることができます。
オークマのタップ加工プログラム
通常のタップのプログラム(オークマ)
同期タップ機能を使った引き抜きながらのプログラム(オークマ)
同期タップがついている場合はG282というコードを使ったプログラムを使います。
Qは切り込み量で、Q10とすれば10mmずつ切り込んでいきます。E0は決まったものとしてブロック中に入れておきましょう。
このプログラムを使えば、切り込みごとに1mm手前までは倍の速度で送ってくれます。
タップが折れる!その理由は?
タップは、機械加工の中でもトラブルが起きやすい加工です。
加工技術者であれば、誰しもがタップを折るミスはしたことがあるのではないでしょうか。
タップが折れてしまうと製品が作り直しになったり、放電加工でタップを抜く手間が発生し、なかなか厄介なことになります。
本項ではタップが折れる原因とその対策をまとめました!!
タップに摩耗、欠けが発生している
タップは何度も使っていると、摩耗が発生してしまいます。
摩耗して切れ味が悪くなると、切削負荷が大きくなって折れてしまいます。
また刃先に材料がくっつく現象(構成刃先)や、切り粉が悪さをすることによってタップの刃先が欠けてしまうこともあります。
欠けたタップではかなり折れやすくなってしまうため、タップを使う前には刃先の状態を確認しておくようにしましょう。
SUS304などの難削材を加工する際は特に注意したほうが良いです!
また、タップを立てた際に負荷がかかっている感覚があったり、かじったような嫌な音が聞こえた場合、タップの寿命がきている場合が多いです。
そのようなタップは折れる前に廃棄し、新品のものととりかえることで折れるのを未然に防ぐことができます。
マシニングセンタで若干嫌な感触があった程度の多少の摩耗であれば、ボール盤で回転を下げ、後述するステンコロリンを使った上でタッピングを行えば再利用することができます。
切り粉がつまった状態で加工している
タップの下穴に切り粉が詰まっていた場合、切り粉が邪魔をしてタップが入っていかず、折れてしまうことがあります。
また、同様に切り粉がタップに絡まったままだと切り粉の逃げ場がなくなり、タップが折れる原因になります。
タップに付着した切り粉や下穴の切り粉はしっかりエアーやクーラントで除去しながらタッピングを行うようにしましょう。
下穴径が小さすぎる
タップの下穴径が小さいと、タップの切削負荷が高くなりすぎて折れてしまいます。
下穴のドリル径を間違えている場合はもちろんですが、SUS304のような材質では通常の径の下穴でもタップが折れてしまうことがあります。
一般的なねじ穴の場合、下穴径は0.1mm大きいドリルを使ったほうが基本的にうまくいきます。
0.1mm大きいドリルを使って下穴をあけても、実用上は全く問題ありません。
特にSUS304などの難削材を加工する場合は、公差の入った精密なタップ穴でない限り常に0.1mm大きいドリルを使って下穴を開けるようにしましょう。
これだけでタップが折れるトラブルを大きく減らすことができます。
ですが、例えばチタンのような材質ではドリルを0.1mm大きくしてもまだ折れるため、より慎重なタッピング作業が必要です。その場合は後述する手で立てる方法を使うと良いです。
下穴が浅すぎる
ドリルが切削負荷(スラスト抵抗)によって引っ込んでしまったり、穴深さを間違えていたことが原因で下穴が浅い状態でタップを立ててしまうと、ほぼ確実に折れてしまいます。(伸縮タッパーを使っていれば、このような場合でも折れずにすむことがあります。)
慣れないうちは、タップ下穴の深さをノギス等を使って確認してからタッピングを行うと安心ですね。
切削点に油が届いていない、油の性能が低い
タップは基本的に1パスで削り進むため、大きな負荷がかかります。
そのため潤滑性能の高い切削油を使い、切削抵抗を下げてやることがかなり重要になってきます。
クーラントの種類は大丈夫?
アルミもしくは鋼材にタップを立てる場合、マシニングセンタで使うものであれば、基本的にどの油でも問題ないはずです。もちろんクーラント濃度が低くなりすぎていると潤滑性能が足りずタップが折れてしまうこともありますので、濃度管理はしっかり行うようにしましょう。
一方、SUS304やSUS306などの削りにくいステンレスにタップを立てる場合はどのクーラントでも良いというわけではありません。
必ずエマルションの、ステンレスに対応したクーラントを使用するようにしましょう。
そうでないと潤滑性が足りず、タップが折れてしまう原因になります。
ちなみに私が勤務先でマシニングセンタに使っている切削油は、タイユの「ハイチップ EX-318」です。
牛乳のような色で、メンテナンスを怠ると切削性が大きく低下したり、腐敗して悪臭を発したりしてしまうことがあります。
ですが、適切にクーラントのメンテナンスを行えば、ステンレスへタッピングができるほどの潤滑性能があります。
エマルションの意味がわからない方はこちらの記事をご参照ください!
ステンコロリンの潤滑性がかなり高い
ボール盤でタッピングを行う場合や、 クーラントの潤滑性能が十分でない場合は「ステンコロリン」を使うのをおすすめします。
「ステンコロリン」は、少しふざけた商品名ではありますが、かなり潤滑性の高い油です。
私も勤務先で、ボール盤でタッピングを行う際に毎日のように使っています。
もしクーラントの潤滑性能が低いことが原因でタップが折れる場合、「ステンコロリン」をハケで塗ってから試してみてください。
ペーストのものもあり、そちらの方がより潤滑性が高いです。
追記:JIMTOFでサンプルをもらった「ルビシル」のペーストもステンコロリンと同様かそれ以上に潤滑性が高かったため、おすすめです!!私の勤務先でも購入し、特に折れてほしくないときに活用しています。
クーラントや潤滑油が刃先に届くようにする
切削油は潤滑性能を高めてくれる、タッピングには欠かせないものです。
油は刃先に届いていないと意味がないため、加工中や加工前にきちんと刃先に給油できているか確認するようにしましょう。
基本的なことですが、しっかりと刃先にクーラントを噴射する、もしくはハケでステンコロリンやタッピングペーストをしっかり塗っておく、といったところを押さえておくのが大切です。
油の性能が悪い
クーラント濃度やその劣化具合は切削性能に大きな影響を与えます。
例えば私の勤務先で使っているクーラント、タイユの「ハイチップ EX-318」は、クーラント濃度が下がってきたり、摺動用の油が混じったりしても見た目はそれほど変わりませんが、切削性能が大きく落ちます。
作業していて直接体感できるほどです。
クーラントの性能の低下を感じたらすぐに濃度調整を行い、それでも改善しないようならクーラントの早めの入れ替えを検討しましょう。
そしていくらクーラントの性能が良くても、悪条件のSUS304などの難削材のタップは厳しい場合があります。
その場合はステンコロリンなどのハケ塗りの油を直接塗った上でタッピングを行うようにしましょう。
切り粉が排出できていない
タップ深さが深いとき、スパイラルタップでは切り粉がうまく排出できず、タップの溝に詰まってしまうことがあります。
その際はタップハンドルを使って引き抜いて切り粉を除去しながら切り込むか、マシニングセンタで引き抜きながらタッピングを行うプログラムを使うことで切り粉を除去しましょう。
穴の加工硬化
下穴用のドリルの切れ味が悪い状態で加工していると、金属材料に加工硬化が起きてしまうことがあります。
加工効果とは、加工時の熱や圧力によって材料が硬化してしまうことをいいます。
その加工効果が起きた状態でタップを断ってしまうと、硬いのでうまく削ることができず、タップが折れてしまう危険性が高くなります。
タップがうまく立たない時はタップを換えるだけでなく、キリを交換したり研いでみるのも1つの手です。
深いタップはどうやって加工する?
タップ加工で特に折れやすいのが深いタップ加工です。
深いタップを立てる際に注意するポイントをまとめました。
深いときは手で立てる
折れやすいタップを立てる場合は、機械を使わずに自分の手で、タップハンドルを使って立てるのがおすすめです。
時間がかかってしまうのがデメリットですが、折れそうになっているのが感覚でわかるため、タップが折れることを防げます。
タップを手で立てる際は、ななめにに立ってしまわないように気をつける必要があります。
ななめにならないようにする対策としては、マシニングセンターやフライス盤などで数mmだけタップを立てておく方法や、フライス盤等のセンタードリル等をタップの中心に軽く当てて直角を出す方法があります。
簡易的な方法でしたら、Y方向とX方向のそれぞれで、スコヤで直角を合わせながら立てていくこともできます。
止まりのタップで、有効が長すぎる場合はタップ先端を削って短くする
タップが折れてしまう1つのパターンとして、 下穴の奥にタップがぶつかるまで送ってしまうことが挙げられます。
とはいえ、下穴が十分な深さまで開けられず、下穴の奥ギリギリまで有効ねじ部になるように立てないといけない場合もありますよね。
そのような場合はグラインダーを使ってタップの先端を削り、不完全ねじ部を短くしてしまいましょう。 そうすれば下穴の奥ギリギリまでタップを立てることができます。
タップを削る際の注意点として、タップの不完全ねじ部を完全に削りとってしまうとうまくタップが下穴になじまずタップに欠けが発生したり、折れてしまう原因になりますので気をつけましょう。
回転数を上げすぎないように気をつける
タップに限らず切削加工全般に言えることですが、回転数が大きくなれば切削抵抗も大きくなり、工具に負担がかかります。
特にタップ加工は工具への負荷が大きい加工ですので極力回転数は落とすようにしましょう。
ハイスは低回転に強い工具材質ですので、回転数が低い分には問題ありません。
具体的には切削速度5m/minほどが目安です。
また、逆転の際の回転数もポイントです。タップを逆回転で引き抜く際に、回転数を上げすぎると”カジリ”が発生してタップが折れやすくなってしまいます。 もしマシニングセンタで、タップを引き抜くときに回転数を上げている場合は、 トラブルの原因になってないか確認してみる必要があります。
ポイントとスパイラルを使い分ける!
タップが折れる際はほとんどスパイラルタップです。 ポイントタップが折れる事は滅多にありません。
そのため、折れそうな深いタップを立てる際は止まりでもポイントタップを使う方法もあります。
もちろんポイントタップを止まり穴に使うとキリコが奥に詰まってしまうため、引き抜きながら3回くらいに分けて手でタップを立てる必要があります。
時間がかかってしまう作業ですので、加工数量が多いものにはあまり現実的ではありませんが、単品ものを加工する際は有効な方法です。
私はチタンにタップを立てる際によく使います。
材料に適した切削油を使ってタップを立てる
SUS304などの削りにくい材料で、かつ深いタップの場合は先ほど説明したようなステンコロリンをハケで塗ってからタップを立てましょう。
マシニングセンターでSUS304等ステンレスにタップを立てる場合は、必ず材料に適したエマルションの油を使いましょう。ソリュブルの油をステンレスのタッピングに使うとタップが折れてしまいます。
伸縮するタッパーを使う
特に同期タップ機能がついてない機械ではマストなのですが、伸縮するタッパーを使ってタップを立てましょう。
タップに一定 の負荷がかかると空回りするように設計されたタッパーです。 Z方向にも伸縮するようになっていますので、 万が一送り速度を間違えていた等のことがあってもタップが折れることを防いでくれます。
ちなみに同期タップであれば、無理にタッパーを使うことはありません。
とはいえタッパーを使ったほうが折れにくくはなりますので、うまく活用するようにしましょう。
スレッドミルを使う方法も!
スレッドミル加工は、動画のようにねじよりも小さい工具を回転させ、マシニングセンタで3軸同時制御でねじを切っていく加工方法です。
通常のタップよりきれいに仕上がります!
プログラムは工具メーカーが作成ソフトを公開していますので、各スレッドミルのメーカーのホームページを見てみると良いです。
小径のタップにはロールタップはかなり良い!
通常の切削タップと比べて、寿命が長く折れにくいのがロールタップです。
転造タップ、盛り上げタップとも言われ、切り粉を出さずに下穴形状を変形させることでタップを立てます。
このロールタップ、M4くらいまでの小径のものであれば負荷も小さいため、特に扱いやすいです。
私の勤務先ではM2のロールタップを活用していますが、切削タップと違って普通に使っている分には全く折れる気配がありません。
注意点としては、切削タップより下穴径は大きくなります。切り粉が出ず、盛り上げてタップを立てるため下穴が大きくなるのは当然ですよね。
このロールタップ、寿命が長いためタップメーカーが儲からないという情報をtwitterで見かけたくらいです。
とはいえ、盛り上がりすぎてボルトが入らなくなる事があるなど、下穴の精度が要求され、切削とは違った難しさがあるタップでもあります。
余裕のある方は、M8くらいまでの大きめのロールタップに挑戦してみてはいかがでしょうか?
OSGのホームページによると、M45まで転造で対応可能なのだそうです。当然機械のトルクが必要になってきますので、確認してから加工するようにしましょう。
ロールタップを使ったらボルトを通して確認する
ロールタップは、材質や下穴径によってはネジ山が盛り上がり過ぎ、ボルトが通らないということが起こります。
加工したら、ボルトを通してみてきちんと通るか確認を行うようにしましょう。
タップが折れてしまったら?
タップが折れてしまった場合、簡易放電加工機である「おれとーる」を活用すると良いです!
タップが折れてしまっても気軽に折れタップを除去することができます。
私の勤務先でも活用していますが、かなり活躍してくれている機械です!
おれとーるについて詳しくはこちらの記事にまとめています。
タップ加工は単純だが奥が深い加工
タップ加工は、 切削加工の仕事を始めたらまず習得するような基本の加工の1つですが、やってみると奥が深く、難しい面もある加工です。
タップ加工がうまくいかない場合は本記事を参考にしていただき、加工の方法や条件を変えてみるのがおすすめです!
特にロールタップはおすすめですので、使ったことがない方は一度試してみてください。
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