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私は普段金属加工を行う町工場の技術者として、NC旋盤と汎用旋盤、マシニングセンタを活用して仕事をしています。その日々の業務の中で危険だと感じるのが「切粉(きりこ)」です。切りくずとも呼ばれます。
切粉は、単に手を切りやすいだけでなく、下手に扱うと巻き込まれによって指や腕を切断する原因にもなりかねない大変危険なものです。
本記事は、切粉の危険性とその対策について詳しくわかりやすく解説しました。ぜひ切粉を適切に処理しながらの安全な作業にお役立て下さい。
切粉についての、加工に関する記事はこちらになります。
切粉には様々な種類があり、危険性も様々
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切粉と一口に言ってもその種類には様々なものがあります。ここにあげた4種類はほんの一例で、その種類を上げると無限大とも言える位です。様々なキリコについては1番最後の切粉ギャラリーにまとめていますのでぜひご覧ください!
切粉の危険性に関してもその形状によって変わってきます。 例えば上画像のような旋盤の長い切粉は巻き込まれの危険性をはらんでいますし、フライス加工で出る線状の切粉は尖っているため軍手を貫通して手に刺さることがよくあります。さらにこういった切粉はエアーで飛散するため、目に入ってしまう危険もあります。
こうして画像で見ると美しく魅力的な切粉ですが、注意して扱う必要があることがわかりますね。
切粉による危険なトラブルとその対策
巻き付き
切粉による事故の中で最も危険と言える事故が、巻き付きによるものです。
フライス盤・マシニングセンタでもドリルに巻き付いたりということが良くありますし、旋盤でもワークに巻き付いていくことがあります。
ステップを適切に入れていなかったり、旋削においては送りが遅すぎてチップブレーカーがうまく機能していなかったりすることで長い切粉が出て、それが巻き付いてしまうのです。
そして最もやってはいけないのが、巻き付いた切粉を取ろうとして軍手をしたまま回転物に触ってしまうということ。
最悪の場合機械に巻き込まれてしまい、指や腕を切断する可能性があることはおろか、死亡する可能性もあります。
軍手だけでなく、髪の毛や袖なども巻き込まれるリスクがあります。
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巻き付きの対策
切粉がつながってしまう場合は、切粉かき取り棒を使って切粉を除去しながら加工を行うのが有効です。
下画像にアスクルで販売されていた既製品を掲載していますが、私は師匠が金属棒で自作した棒を使っています。刀のつばのような部分はありませんし、取っ手も画像の物のようにしっかりはしていませんが、必要十分です。
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特に切粉がつながってしまう悪条件で加工せざるをえない場合では、逐一面倒でも主軸を止めて切粉を除去しながら加工を行うようにしましょう。
切粉が巻きついているのに無視して加工を続けてしまうと悪ければ下に溜まっているすべての切粉を巻き込んで回りだすので、相当激しく切粉が暴れることになります。そうなるとワークもだめになるでしょうし、身体が巻き込まれるなどして怪我の危険もありますので、悪条件下では切粉にしっかり気を配りましょう。
例えば旋盤の荒加工では。アルミの5052やチタンなどの材質が特に切粉が切れにくいです。そういった場合専用のチップを使用したり、切削条件を調整することで切粉が切れるようになる場合があります。
また、穴加工や溝入れ加工ではステップを入れることで切粉を切ることができますので、積極的に活用しましょう。
旋盤で、切粉を分断しながら加工する方法についてはこちらの記事でもう少し踏み込んで解説しています。ぜひ参考にして下さい。
巻き込まれないようにするためには?
回転機械を扱う上で最も怖いのが巻き込まれによる事故です。
そして絶対にやってはならないのが、切粉が巻き込まれた際に、その切粉を取ろうとして回転しているドリルや主軸に手を近づけてしまうことです。そういった作業は必ず主軸を止めてから行いましょう。
そして安全のためには服装も重要です。
まず、髪の毛を巻き込まれないようにあまり長くしすぎず、帽子をかぶった上で作業を行いましょう。
また巻き込まれる危険があるため作業着の腕のボタンはしっかり閉めておきます。 そして何より大事なのが軍手を使わずに作業を行うことです。巻き込まれ事件のうち、軍手をしていたことによるものが多くを占めているためです。
軍手の巻き込まれの危険についてはこちらの実験動画を参考にして下さい。
飛散
切粉の飛散による事故も大変危険です。
飛散による事故で最も多いのは目へのトラブルです。
防護せずに作業を行っていると、旋盤やフライス加工での超高温の切粉が目に飛んできて、目に裂傷を負った上にやけどしてしまう可能性もあります。
アルミやステンレスの切粉も危険ですが、鋼材の切粉は更に危険です。
リューターなどを使った際に出る細かい切粉でも鉄が目に入ってしまうと、目の中で鉄が錆びてしまいます。その錆による悪影響は一生残ってしまうということも聞いたことがあります。
そのため、鉄が目に入った場合はすぐに病院を受診するようにしましょう。
私の師匠が実際に経験したことなのですが、切粉が目に入って「痛いなぁ」と感じながらいつものようにそのままにしており、なかなか痛みが治まらなかったため病院に行ったところ、鉄を除去するために、治療として目を「ゴリゴリゴリ!」と削りとられてすごく大変な目にあったそうです。
言うまでもないですが、なかなかつらい治療だったということでした。それほどの処置が必要なほどやはり危険なものなのです。
追記
調べてみたところ、サビを放置すると発症する”眼球鉄錆症”になってしまうと、最悪の場合失明に至ったケースもあるそうです。(参考:冨田実アイクリニック銀座様https://www.tomita-ginza.com/ippan/cfb/)
切粉の温度は600度を超えることもあります。そんなものが目に刺さると思うとゾッとします。常に注意して作業を行いたいですね。
飛散防止・対策
保護メガネ
キリコの飛散への対策の1つ目としては保護メガネです。 裸眼の方はまず保護メガネを着用しましょう。 メガネをかけている方は メガネの上からかけられる保護眼鏡もありますが、煩わしさを考えるともう正直現実的ではありません。だからといって通常のメガネをかけて作業を行っていると、切粉によってメガネが傷だらけになってしまいますし、何よりメガネの隙間から切粉が入ってきて目に入ってしまう危険があります。
それを防ぐために、普段メガネをかけている方に私がお勧めしたいのが、”花粉用メガネ”です。
私はZoffの花粉用メガネを使っていますが、これは上下左右に花粉が入らないようにシールド(出っ張り部)が施されていて、目が防護される仕組みになっていますのでそのまま保護メガネとして活用することができます。 度付きレンズももちろん使用できるため、私は度付きで使用しています。また、目が良い方でも、度無しレンズを使えば通常の保護メガネよりクリアに見ることができるため、大変オススメです。
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フルカバーの機械を使う
なかなかすぐにできることではありませんが、フルカバーの機械を使うことで安全に加工ができます。
古い機械ではハーフカバーの機械がありますね。私の使用するマシニングセンタも30年以上前のもので、ハーフカバーのものです。また、汎用旋盤には基本的にカバーはありませんね。旋盤では、作業者本人は切粉に気をつけて作業を行っていても、作業者の周囲にいる人にキリコが飛散し怪我をさせてしまう場合があります。そのため、主軸のそばには高いついたてなどを設置し、切粉の飛散防止対策を行いましょう。
さらに、ハーフカバーのマシニングセンタ等の場合、切粉がとんでくるところにアクリル板を一時的に設置することで切粉の飛散を防ぐ方法もおすすめです。
エアーを使用する際に注意する
意外と多いのが、エアーによる事故です。エアガン(エアーダスター)で細かい切粉を吹き飛ばした際に、それが目に入ってしまうことがあります。リューター等の細かい切粉を吹き飛ばすことが多いため、眼鏡の隙間から入ってくることもあり要注意です。
無意識に作業しがちですので、エアーを吹く際はしっかりと吹き出し先の安全を確認して行うようにしましょう。
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刺さる・切れる
フライス加工の切粉
切粉は大変鋭利ですので、触ると手が切れてしまいます。
また、特にフライス加工のエンドミルを使って出た切粉はとにかく手によく刺さります。
軍手をしていても軍手の上から刺さることがしょっちゅうです。
フライス加工を日常的に行っている作業者の手を見るとわかるのですが、細かい切粉が皮膚の下にいくつか埋没していることがあります。刺さってしまった切粉が抜けなくなってしまい入り込んだままになってしまった状態です。
時間が経つと不思議となくなりますが、結構痛いことがあります。
引退した私の師匠は当時67歳でしたが、手を見せてもらった際に分厚い皮膚の下にいくつもの切粉が入っていたのが記憶に残っています。手の皮が比較的分厚い方でしたが切粉は簡単に貫通してしまうということですね。
一番切粉が刺さりやすいタイミングは、マシニングセンタの切粉を掃除するときです。私の勤務先では手作業で切粉をドラム缶に移す作業を行うのですが、特にその際に刺さります。
結構痛いので、切粉用のピンセットを用意しておくことをおすすめします。
旋盤加工の切粉
旋盤の切粉も同様に要注意です。
特に分断されていない長い切粉が危険です。切粉を捨てようとして素手で引っ張ると、まず間違いなく切れると思って良いでしょう。軍手をした状態であれば軽く引っ張るのは良いですが、強く引っ張ると軍手ごと切れてしまうことがあります。
グルングルンにからまっていることも多いため、引っ張りたくなる気持ちも分かるのですが、危ないです。
一方で、旋盤の分断された切粉は、軍手をして扱えば意外と切れることは少ないです。
刺さる・切れる対策
軍手をしていても切粉を処理する際は手を使わずに道具を使用しましょう。
特に旋盤の切粉が処理しづらいですが、片手レーキとスコップを活用することで比較的スムーズに処理を行うことができます。
手順としては、まずは片手レーキを2本使い、ぐるぐるに巻きついた長いキリコをどかします。次に残ったパラパラの切粉をスコップで片付けます。
ぐるぐるの切粉をどかす前だと、スコップが入らず切粉の処理が難しくなります。
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労災に発展することも起こりやすい。
手を深く切ってしまったり、もっと重大な事故が起こってしまうともちろん労災にも発展することになります。労災保険を使うことは会社としてはできれば避けたいことかと思いますので、そういった意味でも注意して作業を行いましょう。
切粉の危険性を忘れずに。安全第一での作業が大切
いかがでしたでしょうか。切粉は毎日のように目にするものなので、慣れてしまうと特に危険を感じずに作業してしまいがちです。この業界では指を切断しているという方もそれほどめずらしくはありません。気をつけようと思ったときに既に手遅れになっているというのが事故なので、本記事を参考にしていただき、切粉の危険についてしっかり対策を行いながら日々ご安全にお過ごし下さい。
蛇足ですが、様々な死亡事故事例を知っておくことも大変重要です。是非こちらの記事にも目を通されることをおすすめします。
そして下部にさまざまな切粉の画像を切粉ギャラリーとして掲載しています。見ているだけで面白いと思いますので、ぜひご覧ください。
【切粉ギャラリー】危険でありながら美しい、様々な切粉の画像集
これまでご紹介した画像も含め、様々な切粉の画像を集めました。クリックで拡大できます。
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