以前こちらの記事をtwitterで投稿しました。
すると、「できない社員に困らされている・・・」という反応が多く、またtwitter内でも向いていない後輩・社員の愚痴をよく見かけます。
私も明らかに機械加工に向いていない後輩を指導した経験があるため、私のとった方法や考え方について本記事にまとめました。
3ヶ月経っても測定器さえ読めるようにならない後輩
私は社員数8人の零細町工場で旋盤を担当しています。
恩師が引退し、当時は私一人で丸ものを全て加工していたのですが、新たに旋盤担当を採用することになり、他業界3社を経験した後に中途で採用された24歳の男性を指導することになりました。
正直向いていないと思った
その後輩は人当たりも良く、真面目な性格の方でした。
ですが冒頭に掲載した向き不向きの記事に書いたように、その後輩は残念ながら明らかに旋盤の仕事に向いていないと思える方でした。 本当にミスばかりでした。
具体的には、入社3ヶ月時点で・・・
- 小数の足し算引き算(0.6+2.8など)をはじめとした小学生レベルの計算ができないため、加工プログラムの作成が難しい
- 目盛りが読めないためマイクロメータやアナログのノギスでの測定ができない
- ブロックゲージを正しく組み合わせられないため、ブロックゲージでの測定ができない
- 図形を頭の中で想像することが難しく、図面上の横穴などの形状が理解できない
- なぜそうなったのか、理由を理論立てて考えることが苦手なため、ミスを繰り返してしまう(例えば製品にキズがつく仕組みが理解できないため、切り粉の噛み込みやチャッキングミスで何度もキズをつけてしまう)
- 受けた指示を理解するのが苦手
またこれは性格的なところだと思いますが、指示を理解できていないのに「わかりました」と勝手に行動してしまうのが一番困りました。これは主観ですが、今までの人生経験から「わかりません」と言うことにかなりの恐怖心を持っていたのだと思います。
必死に指導を続けた試用期間の3ヶ月
検査・事務担当、社長を始めとした経営者、そしてもちろん私も粘り強く必死に教えた試用期間の3ヶ月でした。
私の勤務先は人に対して辛くあたったり、見下すような態度は決して取らない社風で(もちろん厳しく指導することもあります)、彼自身も含めて全員成長のために必死だったと思います。
ですが、結局試用期間が終わる3ヶ月目の面談で、社長が試用期間の延長を打診したのですが、彼はミスへの恐怖を理由に退職を告げました。
私のとった行動と考え方
ミスばかりの彼と私自身を重ねずにはいられなかった
私は新卒で入社した大手企業を退職して現在の勤務先で働いています。
こちらの記事にも書いたとおり、私自身も前職で本当に仕事ができず、毎日上司に罵倒され、その後仕事をほぼ完全に干され、無視されてばかりの日々を送っていました。
彼の、任される仕事はほとんど失敗し、どんどん信頼を失って、罪悪感から日々笑顔で会話することもできなくなっていく様子を見ているとかつての自分に重ねずにはいられませんでした。
私は勇気を出して前職を退職し、職業訓練を経て天職とも言える機械加工に出会って現在があるのですが、彼はまだ自分の居場所を見つけることができておらず、しかもそれがウチに入る前に3社分も繰り返されていたと考えると、その辛さは想像を絶すると思います。
大人の発達障害
私は前職で本当に仕事ができず、上司から「お前は頭がおかしい、障害者だ」と罵倒され続けてきました。
病院で発達障害の検査もしました。(結果は正常でしたが^^;)
そういったことがきっかけで大人の発達障害(自閉スペクトラム症、学習障害)について学び、理解を深めることができました。
自閉スペクトラムとは、スペクトル(例えば虹のような分光)の色の境界が曖昧であるように、健常者と障害者の境界があいまいな自閉症のことです。
あなたの周りに“変わってる人”っていませんか?きっとたくさんいるかと思います。そういった方は、広い意味では全員自閉スペクトラム症です。
健常者との明確な境界がない障害なので、人よりなんとなくこだわりが強い、空気が読めない、怒りっぽい、そういった“個性”と呼べるレベルでも、健常に近い自閉スペクトラム症とも言えてしまうんです。
もちろんそれは私も例外ではなく、私の一部の自閉スペクトラムの要素(個性)のせいで仕事がうまく行かなかったという要素もあると思います。
(参考:自閉スペクトラムについて キズキ様)→ https://kizuki-corp.com/kbc/column/asd
同じように、彼はLD (学習障害)かと思われます。
学習障害について詳しくは割愛しますが、「読み」、「書き」、「算数(計算)」など特定の課題の学習に大きな困難がある障害のことです。(学習障害について下のリンクで分かりやすく解説されています)
努力する意思があっても人より明らかにできないという経験が私にもあったため、彼にも自分自身の苦手を認識してもらい、役に立てる場所を見つけてほしいと考えました。
彼が退職する際に私が伝えたこと
彼が退職を決めて最後に出社した日、二人だけで話をする時間をつくってもらいました。
その場で、私の苦労してきた経験、自閉スペクトラムのことを話した上で、彼が学習障害である可能性が高いこと、仕事ができないのは自身の頑張りが足りないせいではないということ、
それから、同じように失敗ばかりだった私でも、役に立てる今の場所を見つけられたこと、彼にも同じように役に立つ場所が必ずあるということを話しました。
そのときはもう彼は再就職活動中だったため、次の仕事は自分の苦手を認識した上で選ぶこと、そして次の仕事がだめだったら学習障害の支援を活用して就職活動をするべきというアドバイスをしました。
彼は話を論理的に理解するのが苦手ですので、どれほど理解してもらえたかは分かりませんが、霧が晴れたような顔をしていたのは印象に残っています。
経営者の方針に対する私の考え方
私の勤務先の経営陣、主に社長は本当に熱心に彼を一人前にしようと全力を尽くしていました。
いくら自分の教えたことが伝わらなくても、厳しい口調で注意しながら決して見捨てることなく、見ていて本当に熱意の伝わる指導でした。
彼を一人前にすることを諦めかけていた私ですが、社長の熱意に感化され、私も最後まで必死に指導しました。
この出来事で社長をはじめとした経営陣の優しさと誠実さに改めて気付かされました。
ですが・・・
その後、経営陣から彼を本採用はできないけどアルバイトで雇用できるという案や、試用期間を延長するという案が出ましたが、私は正直これらの案については賛成できませんでした。
その理由は、これらの案は彼に期待した優しさのように見えて、彼が新しい自分の居場所を見つける妨げになっているように感じたからです。
本当に彼のことを考えるのであれば、試用期間で契約を終了し、彼が自身の居場所を見つけられるようにアドバイスして背中を押してあげるべき、というのが私の考えです。
この経験が、同じ苦労をしている方の役に立てば嬉しいです。
冒頭に紹介した記事の反応で、向いていない新人について本気で悩んでいる金型屋さんの経営者さんからのコメントがありました。
本記事はそのコメントがきっかけで書いたものです。
できない社員に悩んでいる方、彼のように現状苦労している方に、私の経験が役に立てば嬉しいです。
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