旋盤加工を行う上で、毎日のように加工することになるテーパー加工。
その加工手順はNC旋盤で加工するか汎用旋盤で加工するかによっても全く違いますし、複数の加工方法があります。
本記事では、汎用、NCそれぞれの加工手順や、NCプログラミング、計算方法について、現役旋盤工である私が解説しました!
旋盤におけるテーパー加工とは?
テーパー加工とは、角度がついて斜めになっている形状のことです。下図のとおり、片側だけの斜め形状を勾配、両側の均等な斜め形状をテーパーといいますが、旋盤加工においてはワークを回転させて加工するため、基本的に斜めに削った加工のほぼ全てがテーパーになります。
通常の外径のテーパー加工であれば、先端側が細く、根本側にいくに従って太くなっていくテーパーが一般的です。逆に先端が太く、根本にいくに従って細くなっていくテーパーは逆テーパーと呼ばれます。ちなみに内径加工では、先端側が広く、根本にいくに従って狭くなっていくテーパーが通常のテーパーです。
テーパーの役割
テーパーは、ボルトなどで機械部品同士を締結する際に、位置決めをする役割があります。
例えばマシニングセンタやフライス盤の主軸にもテーパーが使われており、工具のテーパーと主軸のテーパーを密着させることで位置精度を出す仕組みになっています。
また、部品同士を緩みにくくする効果もあります。
例えば自動車のホイールはイメージしやすいですね。 車両ホイールと締結するときにテーパーナットを使うことで線ではなく面でナットとホイールが当たるため、摩擦力が大きくなり緩みにくくなります。さらに、同様にテーパー同士で締め込みを行うことでガタがなくなり位置決めも行うことができるようになっています。
他にも、面取りの代わりや部品同士の干渉を避けるため、剛性を保ったまま軽量化するため等、様々な理由でテーパー加工は行われます。
とりわけ旋盤加工で特徴的なテーパー加工は、心押しセンターを使った加工を行うための前加工です。
心押しセンターは60度のテーパーになっていますので、その角度と合わせるためにセンタードリルを使って60度テーパーの穴を開けます。同様に、心押しセンターを押すために60度テーパーになるよう内径バイトで面取りを行うことも多いです。
この加工をあらかじめ行っておくことで、心押しセンターを使って強力にワークを保持し、びびりを抑え、振れ精度も高い状態で長尺ものなどの加工を行うことができます。
旋盤では加工する機会が大変多いテーパーです。
心押しやセンタドリルについてはこちらの記事も合わせてご覧ください。
テーパー加工のやり方・手順
テーパー加工のやり方について解説します。この加工のやり方は、NC旋盤と汎用旋盤で大きく異なります。
汎用旋盤
まず、汎用旋盤では基本的に刃物台を傾けてテーパー加工を行います。手順としては以下の通りです。
- ワークをクランプし、刃物台に工具を取り付ける。
- 刃物送り台のボルトを緩める
- 刃物送り台を削りたいテーパー角度に傾ける。
- 刃物送り台のボルトを締める
- 刃物台送りハンドルを使って刃物を送り、加工する
こちらのYouTube動画で基本的な操作が解説されていますので、ご参考ご覧ください。
注意点として、テーパー加工の際は自動送りは使えません。
刃物台送りハンドルを手送りでのみ加工可能です。加工するだけならそれほど難しい作業ではありませんが、均等な送り速度で美しい挽き目にするためには熟練の技術が必要です。
NC旋盤
NC旋盤では汎用旋盤と異なり、通常の内外径加工と同じように加工することができます。
汎用旋盤のように、刃物台を傾けたりなど特別な作業をする必要はありません。
また、刃物も通常の内外径加工と同様のものを使用します。
プログラムでテーパーに動くように制御するため、このような加工を実現できます。
テーパーのプログラム
NC旋盤のプログラミングでは、直接座標を入力してテーパー加工のプログラミングを行います。
ですが、座標の表示が図面になく角度の指示しかない場合もありますので、その場合はCADを活用したり三角関数を使って座標を計算するなどして対応しましょう。
また、NC旋盤の対話プログラミング機能を使うと、角度を入力するだけで寸法座標を自動的にCADと同じように算出し、座標を入力してくれます。私も普段NC旋盤を使う際は対話プログラミング(OSP: らくらく対話アドバンス)を活用しています。
テーパー加工に使用するバイト
汎用旋盤の場合
汎用旋盤の場合は、刃物送り台を傾けてテーパー加工を行う場合であれば通常の内外径加工と同様の工具を使います。
簡易的な方法として、刃物送り台を動かさずに刃物台のみ回転させ、分度器で角度を調整する段取り方法もあるのですが、その場合は面取りバイトを使用します。
ちなみに分度器を使用した、刃物台のみを回転させる簡易的な段取り方法はこちら。
それほど精度が必要ない場合はこの方法でもテーパーを加工可能です。刃物台とチャックが干渉する場合があるため、注意して行うようにしましょう。
NC旋盤の場合
NC旋盤の場合、面取り専用工具やテーパー専用工具は使用せず、長手加工と同様の内外径加工工具が使えます。
内径テーパーの加工方法は?
内径テーパーを加工する場合、NC旋盤では外径加工と同様に、通常の内径加工を斜めにプログラムを組んで動かすだけですので非常に簡単です。
一方で汎用旋盤では、外径のテーパーと違って刃物台の回転のみで行う簡易的なテーパー加工が、内径では角度を合わせにくい上に刃物形状が理由で先端しか加工することができないため、行いにくいです。
そのため、汎用旋盤での内径テーパー加工においても通常の内径バイトと同じバイトを使用し、刃物送り台を傾けて加工するのがメインになります。
私の場合でしたら、そういったテーパー加工があるときはNC旋盤で加工を行ってしまいます。
テーパー加工の計算方法は?
テーパー加工は、その図面指示によっては計算が必要になってきます。
例えば図面指示に角度のみが出ている場合です。
どのように計算するかといいますと主に3つの方法があります。
- CADで書くことで自動計算する
- 三角関数を使って手計算する
- 対話プログラミングで自動計算する
CADや三角関数は、図面情報を入力するだけで座標が得られるようになっています。
三角関数については軽く解説しておきます!
テーパーの角度計算
旋盤のテーパー加工において、困ることが多いのは角度のみ出ていて寸法が表示されていない場合ですよね。
このような場合、 タンジェントを使った三角関数で計算するのが一般的な方法です。
例えば以下のような図で寸法を求めたい場合、タンジェント30度を関数電卓を使って計算します。
関数電卓はスマートフォンの純正アプリを使うのがオススメです。例えばiPhoneでしたら画面を横にすることで関数機能電卓を使うことができます。
また、上図のような30度の直角三角形の場合、1:2:√3の比になりますので、6×√3で計算しても同様の値になります。
総括:テーパー加工は必須の加工。習得しておこう。
本記事では、旋盤のテーパー加工について、バイトやその加工手順、計算方法など基本について解説しました。
計算方法まで書くと経験のない方は少しハードルが高く感じるかもしれませんが、一度習得するとそこまで難しくない基本の加工になります。
この加工ができることによって加工の幅がさらに広がりますので、ぜひ本記事を実加工や指導のために参考にしてください!
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