大鉄精工という埼玉県の会社の社長さんが書いているブログにとても興味深い記事がありましたので、紹介します。
https://daitetsuseikou.com/blog/2019/02/15/バイトを砥ぐ事/
こちらの2019年の記事です。
大鉄精工の社長さんは旋盤技術だけでなく、NC旋盤のメンテナンスでメーカーレベルの修理までこなしてしまう熟練技術者で、いつもブログを拝見させてもらっています。
(以前の記事では、30年以上前のオークマNC旋盤LB15の芯高が狂っていたため、旋回用のモーターを外し、ベースを外し・・・と後ろをバラし、原因に到達(刃物台後ろ中央のナットが緩んでいた)、刃物台の調整を経て芯高をあわせてしまうところまでやっていました。猛者ですね!)
ブログ記事の一部を引用しながら書いていきます。
今でも汎用旋盤頼りの仕事は多い
うちの特徴としては「難しい加工、面倒な加工」を行うと言う事を武器にしています。
お蔭様で8年目に入って認知度も上がって来ていて継続した仕事に繋がる問い合わせも少しづつ増えて来ていますが、どのお客様も一筋縄では行かない様な図面を持って来られます。その図面にも様々な特徴がありますが大きく分けて二つ。
まず「物凄く交差が厳しい」。もう一つは「形状の問題」。
交差が厳しい物も形状に難のある物も大抵の場合、治具が必要になるので必然的に価格は上がって来ます。ですがそれでも「やって欲しい」と言う風になるケースが多いです。最近多いなと思うのは「角ネジ」。これ難しい(面倒)ですよね。台形ネジは規格があるので今の機械だとそんなに難しく無い部類になってきました。
ですが角ネジは基本的に現合。汎用機仕事で数少ない「十分に取れる」仕事だと思います。上手くNC機に転用出来る様に色々試してみましたが、今の機械は低速でトルクが出ない>ハイスが使い難い>角ネジは厳しい。と言う結論に至ってます。
大鉄精工ブログより
私の勤務先では角ネジの仕事が回ってきたことはありませんので経験はありませんが、NC旋盤でハイスバイトを使って角ネジを低速で切ろうとすると過負荷で機械が止まるそうです。
この角ネジに代表されるように、汎用機が必要とされる仕事はまだまだあります。
私も主にNC旋盤を使って仕事をしていますが、ネジの手直しや転造ローレットなど、汎用旋盤を活用する機会は多いです。
ですが、そういった汎用機でしかできないような仕事ができる職人は現状どんどん少なくなっていっています。
バイトを研ぐ技術の継承は特に難しい
後はバイトを継続的に用意出来る環境を整える事が大事なのかもしれません。
ハイスバイトや写真の様なヘールを使っている人達は解ってくれると思いますが、一日中グラインダーの前で砥いでいたとか油砥当ててる時に「砥いでるのか殺してるのか解らねぇよ」とか言われたり(;´Д`)
大体ペーペーの時に同じ様な経験していると思います。
ですが今の御時世、作業着を粉だらけにして刃物砥ぐなんて事してくれる人居ますかね?
またそこにお金を入れられる会社があるでしょうか?
うちも汎用機を修行?に使わせますが、バイトを砥ぐのは殆どさせてません。面取りの為にロウ付超硬の41,42を砥ぐ位です。
ですがこれだけ需要が増えて来ると逆に教えても良いのかもしれません。
ヘールなんてシェーパーみたいに使えたりして結構面白いですしね。だけどなぁ。上手く砥げるようになるのって、汎用機にかかりきりでも3年位かかりません?
大鉄精工ブログより
汎用機だとNCと比べるとどうしても稼げない。
なので給料分稼いでもらうとなるとNCと並行して行わないといけない。となると5年以上かかりそうです。
それでも途中で辞められちゃうと...そのリスクを考えると中々難しいですよね...
基本的に1点ものの製品以外は汎用旋盤よりNC旋盤の方が速いです。
なので1台の汎用旋盤につきっきりで仕事をしているとどうしても利益が上げづらく、会社の立場からするとNC旋盤を主に扱ってもらわないと経営が立ち行きません。
ですが、NC旋盤ばかり扱っているといつまで経っても汎用機の技術は上がりません。
習得に時間がかかるバイトを研ぐ技術なんかは特にです。
なのでNC旋盤が比較的簡単に手に入るようになった昨今、どんどん汎用にしかできない加工ができる職人は少なくなっていっているわけです。
技術の継承のためにも、熟練技術者は汎用でしかできない仕事に高いお金を取るべき
今汎用機で仕事をされてる会社のほとんどはご高齢の方が一人もしくは少人数でやられてる会社が多く、また安くやられてるんですよね。ハッキリ言って「もっと取って下さい」と言いたいです。
大鉄精工ブログより
お客様もその辺の事を理解しないで「安く使える」程度にしか考えて無いから、その会社が終わった時に如何し様も無くなる。うちにもそんな図面が回って来ますが、恐ろしく安いです。
もう今からでも良いから時間10,000円位とって欲しいです。
出来る人が居なくて需要があるんだから。今後の技術者を育てると言う意味でも考えて欲しいです。
恐らく我々の年代(40~50)が手砥ぎバイトを使用している最後の世代なのだと思います。
次の世代に繋げる為にもそう言った仕事に挑戦して絶やさない様にしたいと思っていますが中々難しいですね...
そして今でも汎用機で仕事をしている人の殆どは高齢で、安くやっている現状があります。
暇だからと趣味を兼ねてボランティア感覚でやられている方も多いのではないでしょうか。
当人は社会の役に立つつもりでやっているのでしょうし、事実役に立っている側面も大いにあります。
ですが、そういった安くやっている方が価格を落としているために若い人の汎用技術が育たないという側面もあります。
技術が必要な汎用機仕事をやっている方には適正な価格をとってほしい、そして折角の汎用機技術が継承されやすい環境になっていってほしいと一人の旋盤工の立場からも願っています。
コメント
じじぃさんが言ってました。近頃の技術士事務所の連中、熱処理焼入れ時のマルテンサイト化に関する半冷曲線を知らないなんてと嘆いていました。