あなたは、旋盤加工を行う上で一番大切なことは何だと思いますか?
納期?品質? いえ、いちばん大切なのは安全です。
どんな行動が危ないかを知っておくことで事故も未然に防げますので、この記事では旋盤を扱う上で気をつけるべきことを書いていきます。
軍手まきこまれ
これは大変身近な事故ですね。軍手をしているのにも関わらず回転しているもの(旋盤のチャックやワーク、ボール盤やフライス盤の工具)にてを近づけてしまい、軍手が巻き込まれてしまうものです。
軍手が旋盤に巻き込まれると、命を落としてしまう可能性も十分あります。
下に死亡事故事例を引用します。
午後の作業開始から間もなくして、「ドスン」という大きな音がしたので、他の作業を行っていた同僚が駆けつけると、AがCNC旋盤内で倒れていた。その後、Aは救急車で病院に搬送されたが、約2時間後に死亡した。
厚労省 CNC旋盤での死亡事故
Aは、軍手をしてサンドペーパーで研磨作業を行っていたところ、軍手が機械部品に引っかかり、巻き込まれたものであった。
極力作業中は軍手を使わないようにし、間違っても、軍手を着用時に回転物に手を近づけないようにしましょう。
追記:フライス盤でも事故事例を見つけました。
万力のあたりに散らばっている切粉を手で払っていたとき、手にはめていた軍手がフライス盤の刃物に巻き込まれ、さらに作業服の腕部分も巻き込まれた。
被災者のすぐ隣りで旋盤作業を行っていた作業者が、被災者の悲鳴を聞き、ただちにフライス盤の非常停止スイッチを押し、刃物の回転を止めた。被災者は救急車により病院に運ばれたが、死亡した。
回転する機械を扱う際に軍手をするのがいかに危険なことかよく分かる事故事例です。
作業着の袖が巻き込まれる場合も
被災者は、旋盤を用いて鉄棒の切削作業中、回転している鉄棒への注油のため、横送り台の上に配置していた注油用容器を手で取ろうとしたところ、回転中の鉄棒に作業服の袖が巻き込まれ、手首を切断した。
厚労省HP
軍手が巻き込まれるというのはよく聞くので注意している方も多いでしょうが、袖が巻き込まれる可能性にまで意識が行っていない方も多いのではないでしょうか。
巻き込まれ事故は手首切断でもいい方、先ほどの例のように死亡する可能性も十分ありますので、本当に注意しておかなければいけませんね。
固いことを言うようですが、服の袖や髪の毛なども巻き込まれる可能性があるので、袖のボタンをしめる、髪は伸ばさない(もしくは帽子内に収める)等、服装もきちんとしておかなければなりません。
チャックハンドル・爪が飛ぶ
まずは爪の締め忘れ。爪を仮締めの状態でチャックを回転させてしまうと、爪がとんでいってしまう可能性があります。
私は普段NC旋盤と汎用旋盤を使う中で、爪を交換した際は、爪を締めつけた直後とワークを回転させる前の2回、必ず確認するようにしています。
機械を使う人が複数いる場合は、自分が気をつけていても他の人が爪を交換した際にボルトを締め忘れている可能性もあります。
機械の使い始めには、爪のボルトが締まっていることを確認しておきましょう。
そして汎用旋盤の場合に限りますが、チャックハンドルの抜き忘れも大変危ないです。
インターネットで検索すると、チャックハンドルの抜き忘れたまま回転させてしまい、チャックハンドルが天井に刺さったという話や、ハンドルにあたって死亡事故が起きたということを目にしました。
・・・怖いですね・・・。
チャックの開閉動作が終わったら、チャックハンドルは必ずチャックから外すようにしましょう。
旋盤のうしろにワークを突き出す
これ、私も以前やったことがあります。もし近くに人がいたら殺してしまっていたかもしれません。
あなたの職場でも同じようなことが起こらないよう、私の体験を説明します。
汎用旋盤で、φ12で全長約1500のワークを加工するため、シリンダからワークを約700〜800mmほど突き出しての加工だったため、安全対策で突き出したワークの先端にラベリングをし、曲がり対策のために、シリンダにφ15ほどの穴が空いた樹脂の振れ止め治具を挿入して750回転ほどで加工をはじめました。
しばらく加工していると、「バッチーーーン」というとても大きい音がして、慌ててブレーキを踏んだところ、シリンダから突き出したワークがぐにゃぐにゃに曲がっていました。
曲がり対策の樹脂の振れ止め治具を、奥まで挿入せずに半分くらいしか挿入していなかったことが原因で、振れ止め治具が加工中に外れてしまったんです。
遠心力でシリンダから突き出たワークが大きく曲がり、何か物にあたって70度くらいは曲がったと思います。
突き出たワークの近くに他の人がいたら一旦加工を止めるようにはしていましたが、もし万が一突き出たワークの近くに人がいて、それに偶然気づかなかったときに発生していた可能性を考えるとぞっとします。
そもそもシリンダーからワークを突き出して回す事自体が危ないです。極力やらないようにしましょう。
どうしても行わなければならない場合は事故防止策として、振れ止めなどの曲がり対策は外れることがないようしっかりと行うこと。そして絶対に近くに人が立ち入らないようにバリケードをはっておくなど、万が一今回のように大きな振れになっても人に当たらないように対策しておくことが必須です。
死亡事故も起きている
厚労省のHPを見たところ、同様の現象で死亡事故も起きています。
NC旋盤で突き出したワークが人の頭部に激突し、死亡したそうです。
背部突き出しでの加工は本当に危険です。
被災者が加工しようとしていた当該ステンレス製パイプの長さは253cmであった。そのため、被災者はNC旋盤の左側に取り付けられていたストッパーと呼称される治具を取り外し、本来ストッパーを具え付ける穴から当該パイプをNC旋盤機にセットした。
この時、被災者は当該パイプを先端から9.5cmの位置でチャックにより固定したため、当該パイプはNC旋盤機から116cm突出した状態であった。また、当該パイプは、NC旋盤機内のチャック1箇所のみで固定されていたため、NC旋盤機に対して完全に水平な状態ではなく、僅かではあるが下方に傾いていた。
被災者によりNC旋盤機が作動された後、当該パイプには高速で回転することによる遠心力がかかった結果、NC旋盤機から突出した部分が大きく折れ曲がって回転し、折れ曲がって回転する当該パイプが被災者の頭部に激突したこと。死亡者数:1人
厚労省HP
NC加工中に体をドアの中に入れる
「加工がおわった!」と思ってNC旋盤のドアを開けたら、加工途中に一瞬停止しただけで、加工の続きが始まった・・・
こんな経験はありませんか?
ひとつ間違えると、体がチャックとタレットの間に挟まれて潰れてしまいます。
こちらも検索したところ死亡事故が見つかりました。
災害発生当日、作業者Aは、パートタイムの作業者Bと二人組で、自動制御された旋盤を使用した樹脂製品の切削加工の工程で材料の供給と加工された製品の取り出しを行っていた。
厚労省HP
この切削加工は、材料を旋盤のチャックに手でセットしてから約2分で終了し、加工された樹脂製品は手で受け取って製品用ボックスに収納するという手順で行われていた。作業を始めて約2時間経過したとき、Aは加工された製品を手で受け取れずに下に落としてしまった。Aが落とした製品を拾おうとして上半身を屈めて旋盤の内部に手を伸ばしたところ、次の製品加工のため設定された加工位置まで移動してきたタレット(バイト等を装着するもの)とチャックとの間にはさまれた。これを見ていたBは、旋盤を停止することができなかったため大声で工場長を呼び、駆けつけた工場長が旋盤の自動運転を解除してAを救出したが、既に死亡していた。
通常のNC旋盤で加工を行う際は、機械が止まったと勘違いするようなプログラミングは行わないことが大切です。
また、自動運転中に体を機械の中に入れることに関しては言語道断。決してやらないようにしましょう。
回転中の穴に手を入れる
これに関しては私にもヒヤッとした経験があります。
ワークの内径をペーパーで磨く作業を行っている時、穴に指を入れると、穴に指が巻き取られていく可能性があります。指を切断することになる可能性も十分あります・・・。
比較的小さい穴径のワークを磨く際は、絶対に指を入れないようにしましょう。
それでも磨かないといけない場合は、棒の先端にペーパーをつけて磨くようにしましょう。
NC旋盤のチャックに指を挟む
NC旋盤の油圧チャック、すごい力で締め付けていますよね。
指なんて挟んだ日には、骨なんてボキボキに粉砕されてしまうでしょう。
これ、私はやったことはありませんが、今後何十年も仕事を続けていると、一度くらいは体験することになりそうで怖いです・・・。
チャックの切粉を掃除する際は、チャックを閉めないからといって、挟まれる位置に指を置くのはやめましょう。 万が一ペダルに足が当たってチャックが閉まってきたときの対策です。
それからワークをセットする際は、手はパーにして手のひらでワークを押し付けた状態にしてからチャックを閉めるようにしましょう。
しかし加工をやっていると、手を毎回パーにすることも難しいと思います。
パーにできない時は挟まないように特に意識して、作業をすることが大事です。
ホイスト使用中の吊り荷の落下事故
ここからは、直接旋盤のことではありませんが、気をつけなければならないことを書いていきます。
7月27日のニュースです。愛知県の大型マシニングを扱っている大物屋さんですね。
吊っていた鉄板が落下、一人が死亡、一人が重体の大事故です。
マグネットで吊っていたのでしょうか。 ぞっとするニュースですね。
機械加工とホイスト式クレーンは切り離せない存在です。
安定した釣り方を心がけるのはもちろんですが・・・
ホイストで吊ったものは、いつ落ちてきてもおかしくないと考え、吊り荷の下には絶対に体を入れないように意識しながら作業しましょう。
両頭グラインダーの砥石の割れ
特に汎用旋盤を使う場合、両頭グラインダーを使うことも多いかと思います。
グラインダーは大変危険です。砥石が割れると飛散し、人にあたると死亡事故にもなりえます。
砥石の取替えや試運転の作業は、そのための教育「自由研削といし取替試運転作業者特別教育」を受けなければならないのを知っていましたか?
私は職業訓練でこの特別教育を受けていますが、詳しい内容は忘れてしまったので、この期に下の動画で復習しました。
この動画は、youtubeで見つけた”自由研削といし取替試運転作業者特別教育”の動画です。
バランス調整のことなど、良い復習になりました。
砥石は過度に力を加えすぎること、側面の使用は控えることなどに注意し、万が一割れても自分に破片が飛んでこないよう、砥石の正面には立たないようにしましょう。
ハンドグラインダーでの事故
両頭グラインダー以外でも、下画像のようなハンドグラインダーでも事故があります。
私が見つけた事故事例としては、
「廃棄処理された劣化した砥石を取り付けて破裂して飛散」
「規格外の砥石を取り付けて、試運転時に破裂して飛散」
というものです。当たり前のことですが、劣化した砥石や規格外の砥石は危険ですのでとりつけないようにしましょう。
ドリルに巻き込まれる事故
本記事更新時点の8月6日、埼玉の工場でφ50のドリルに巻き込まれて死者が出た事故のニュースを知りました。昨日8月5日のニュースです。
ボール盤やフライス盤など機械でドリルを扱う場合は、必ず軍手を外して作業をするようにしましょう。
この事故で亡くなった方が軍手をしていたかどうかはわかりませんが、軍手をしているだけで危険は倍増します。
それから亡くなった方が73歳と、ご高齢だったこともポイントだったと思います。
高齢になると目も見えにくくなりますし、作業の正確性もどうしても落ちてしまいます・・・。
若い方ももちろんですが、ご高齢の方は特に、本当に気をつけて作業するようにしてくださいね。
横中ぐり盤で暖機運転中の事故
同様の事故ですが、横中ぐり盤(横型マシニングセンタのような中ぐり用の機械)に設置したドリルに巻き込まれて死亡者が出ています。
第一発見者は、工場内より機械の暖機運転音の他、バンバンという暖機運転とは異なる音が聞こえたため、工場内を確認したところ、中ぐり盤のドリルに被災者が巻き込まれ、身体全体が回転している状況であった。
死亡者数:1人
厚労省HPより引用
「バンバン」という音は巻き込まれた人の体が機械にあたっている音だったのでしょう・・・。被災者が死亡していることから、相当激しく振り回されていたのだと考えられます。
暖機運転中は加工運転中と違い油断しがちですので、注意しておく必要があります。
機械の衝突によるワークの飛散
機械をぶつけたら、最悪の場合ワークが吹っ飛んで作業者に激突してしまうことがあります。
これで大怪我をしている事例もありますので、ご紹介します!
被災者がNC正面旋盤を用いてサイドモールド裏面内径切削加工を行う際、座標の数値入力ミス(加工物までの距離300mmの数値を入力しなければならないところ、前回設定した500mmで切削作動)により、ツール(切削工具)がワーク(加工物、重量約340kg)に衝突したため、その衝撃で高速回転していた当該ワークがチャッキング(バイスによるワークのつかみ固定)から外れ、飛散した。
厚労省HP
飛散したワークは、周囲を覆っていたカバー内部にぶつかった後、そのカバーが外れ、そのカバーがそばで操作していた被災者の前額部、左腕等に直撃した。
正面旋盤で340kgのワークとのことですので、かなり大きなものを加工していたことが読み取れます。
NC正面旋盤は下画像のようなもの。
大きい機械に限らず、機械をぶつけてしまうことは誰にでも起こり得ることなので、万が一ぶつけてしまった場合でもワークが飛んでこないように普段から対策をしておきましょう。
例えば私の場合、NC旋盤をぶつけないようにするために下記記事のような対策を行っています!
他の機械を扱う方にも参考になる部分があるかもしれませんので、ぜひ参考にしてみてください!
X/ツイッターでの事故事例
X/ツイッターで教えていただいた・見つけた事故事例です。
ニュースにはならないレベルでも、日々工場では様々な事故が発生しています。
こういったツイートを見ると、本当に気をつけなければと改めて実感します。
多軸ボーラーに巻き込まれた
ほんと、たかが50㎜のドリルでも死ぬでね‼️
X- https://t.co/zavHKDMEUe— Maverick (@zaki1500) August 5, 2020
マジで機械は怖い‼️指なんかあっという間にとれる‼️自分も指巻き込まれたけど、骨削った程度でよかった(ドリルははずしてあったもんで)
多軸ボーラーに巻き込まれたから、もし刃がついてたら右手はなかった。
多軸ボーラーに巻き込まれたという方のツイートです。
「もし刃がついていたら右手はなかった」本当にぞっとしますね。
旋盤で薬指と小指切断
知り合いの加工屋さんが旋盤で事故に合い薬指と小指切断だそうです、、、
— C.K.T.Y (@machining_230) January 15, 2020
明日は我が身と気を引き締めて皆様ご安全に、、、
旋盤で薬指と小指を切断。
私はテレビゲームが趣味なので、コントローラーを握れなくなるのが辛いです。それ以前に指が減ると仕事の能率もかなり落ちますよね。
私が今やっているようなPC作業も不便になります・・・。
「明日は我が身と気を引き締めて」本当にそうですね。
旋盤で右手中指を怪我
私も昨年、旋盤で右手中指を怪我しましたので、他人事ではありません。
— セイクレッドグランド (@SGFacendo) August 6, 2020
その際の妻の言葉も一生忘れられない。
「指千切れちゃったの?」
救急車で病院へ運ばれる姿を撮影し、息子に見せて喜ぶカミさんと娘には、感謝しかありません。
息子も喜んでおりました。 https://t.co/FG8A7lxfQT
どういった状況かはわかりませんが、旋盤で中指の怪我。
ポジティブなツイートなので本当に指がちぎれてしまったわけでは無いと思いたいですが・・・。
ボール盤・旋盤・フライス盤でチャックハンドルを飛ばし、負傷
工作機械のチャック外し忘れ
— 寺嶋瑞仁 @和歌山拠点構築中、和歌山県有田 (@simakaze01) April 13, 2019
機械を使ってて最も発生しやすく致命傷に至る可能性が高いのがチャックの外し忘れである.チャックをつけた状態で誤って回転させた場合,機械の破損や運用者の怪我,周囲の作業者の負傷も考えられる.僕自身ボール盤,旋盤,フライス盤でやらかしたことがあり負傷した経験がある. pic.twitter.com/Q3IvnLNEpO
ボール盤・旋盤・フライス盤でチャックハンドル飛ばしをコンプリートした方のツイートです。
チャックハンドルの外し忘れ、本当に気をつけないといけませんね。
Vベルトにまきこまれた・・・
本当に事故は身近ですよね。
X— Maverick (@zaki1500) August 7, 2020
目の前でVベルトにてを巻き込まれて複雑骨折した人を見ているのに、自分は大丈夫だと、いざとなったら即座に身を引けばいいと思っていたと思うんですよね。
その事故から数年後に自分がやらかしました💧
機械のVベルトに巻き込まれた方のツイート。
複雑骨折とは・・・ 生命があっただけ良かったのかもわかりませんが、巻き込まれ事故は本当に恐ろしいです。
一度事故があったところは対策しておかないといけないということを強く感じたツイートでした。
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