「PCDエンドミル」という名前を聞いて、少し馴染みがないと感じる方もいるかもしれません。PCDはダイヤモンドの一種で、切削工具として使用するとCFRPやアルミの加工で抜群の性能を発揮する優れものです。
特に、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を扱う現場では、この工具によってバリを抑えながら滑らかな仕上がりを安定的に実現しています。
この記事では、PCDエンドミルの基本的な特徴やメリットだけでなく、加工中に直面しやすい課題やその解決策についても詳しくご紹介します。
さらに、HORN社のおすすめモデルもピックアップしています。加工品質や効率を高めたい方は、ぜひ参考にしてみてください!
PCDエンドミルとは
PCDエンドミルは、その名の通り切削部にPCD(ポリクリスタラインダイヤモンド)素材が使用されているエンドミルです。
PCDは、非常に硬い人工ダイヤモンドの微細結晶を焼結して作られた素材で、通常の超硬工具よりも10倍以上の寿命を持ち、加工中の切粉の溶着を抑制します。
ダイヤモンドというだけあり、何よりの特徴はその硬さ!
硬さゆえの耐摩耗性と高精度を兼ね備えた切削工具で、長時間の加工でも優れた仕上がりを維持できます。そのため、航空宇宙、自動車、電子機器などの分野で幅広く利用されています。
特に、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やアルミニウムといった軽量で加工が難しい素材に対して効果的で、繊維の剥離を防ぎながら高品質な仕上げを実現します。これらの特性から、PCDエンドミルは高い精度と耐久性を求められる場面で重宝されています。
ダイヤモンド工具の一種であるPCD工具
ダイヤモンドは、場合によっては切削加工を行う上で非常に優れた工具素材になります。その特性は、高硬度と優れた熱伝導率にあります。これにより、加工中の摩耗を大幅に軽減し、加工面の品質を安定させることが可能です。
切削工具に使われるダイヤモンドには、「単結晶ダイヤモンド(MCD)」と「多結晶ダイヤモンド(PCD)」の2種類があります。単結晶ダイヤモンド(MCD)は鋭利な刃先を作るのに適しており、鏡面仕上げ加工など精密な用途に使われます。
一方、PCDは多結晶構造のため方向性のない強度を持ち、割れや剥がれが発生しにくく、長時間の切削にも耐えられる特性があります。PCDエンドミルはこの多結晶ダイヤモンドを使用しており、耐摩耗性と汎用性の高さから、多様な加工現場で活躍しています。
従来の超硬工具と比較すると、ダイヤモンド工具は工具寿命が飛躍的に長く、構成刃先の発生を抑えるため、より安定した加工が可能です。
PCDエンドミルのデメリット・欠点
優れた特性を持つPCDエンドミルですが、いくつかのデメリットも存在します。
1. 鉄系材料の加工に不向き
PCDは炭素を多く含むため、鉄と高温で接触すると炭素が鉄に吸収され、工具が摩耗しやすくなります。このため、鉄系材料の加工には適していません。
2. コストの高さ
PCD工具は製造工程が複雑で、高度な技術が必要なため、初期コストが高いという課題があります。ただし、その耐久性を考慮すると、長期的にはコスト削減につながる場合もあります。
3. 荒加工への不向き
靭性が低いため、大きな衝撃や負荷がかかる荒加工には適しておらず、仕上げ加工を主とした使用が求められます。
PCD工具が適した材質
PCD工具は、特に難削材の加工でその真価を発揮します。アルミニウムだけでなく、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)をはじめとした軽量で加工が難しい素材に対して、他の工具では得られない高い精度と耐久性を持っています。本項では、CFRPとアルミニウムを中心に、それぞれの加工課題とPCD工具がもたらす解決策について詳しく解説します!
CFRPの切削加工
CFRPは、Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略で、その名の通り、プラスチック素材をカーボンファイバー(炭素繊維)で強化した、軽量で高強度な複合材料です。
その優れた特性から、航空機や自動車、宇宙機器など、軽量化と高い剛性が求められる分野で幅広く使用されています。一方で、加工が非常に難しい素材としても知られています。
CFRP切削加工の問題
CFRPの加工時には、いくつかの課題が発生します。
• 繊維層の剥離:CFRPは異方性を持つ素材であり、繊維層の方向によって強度が異なります。このため、切削時に繊維層が剥離しやすく、加工面の品質を損ねる原因となります。
• 粉塵の発生:加工時に微細な炭素繊維粉塵が発生し、人体や機械設備に悪影響を及ぼします。この粉塵は吸い込むと健康被害をもたらすほか、設備の摺動部に侵入して摩耗を引き起こします。
• 工具の摩耗:CFRPは非常に硬い炭素繊維を含むため、加工中に工具が削られやすく、寿命が短くなる傾向があります。摩耗した工具では、加工精度や表面品質の低下が避けられません。
CFRP切削加工の解決策
これらの課題を解決するために使われるのが、本記事のテーマであるPCD工具です。
• 繊維剥離の防止:PCD工具は、鋭利で耐摩耗性の高い刃先を持つため、CFRPの繊維層を切断する際の剥離を最小限に抑えます。繊維を切れ味良く切り取り、僅かな切り残しもしっかり寝かせてくれるイメージです。
また、刃先が鈍らないため、加工中の品質を一貫して維持できます。
• 高精度加工:PCD工具は、超硬工具に比べて10倍以上の寿命を持つため、長期間にわたり安定した精度で加工を行えます。これにより、CFRPの表面品質が向上し、不良率が低下します。
• 粉塵対策:後にご紹介するHORN社のPCDエンドミルは内部給油穴を備えており、加工時の冷却と粉塵排出を効率的に行います。これにより、粉塵の発生を抑えつつ安全性を高めることができます。
アルミの切削加工
アルミニウムは軽量で加工しやすい素材として知られていますが、高精度加工では長時間加工時の切粉の溶着や加工面の荒れが課題となります。特に、航空機や自動車の部品加工では、滑らかで高精度な表面仕上げが求められます。
アルミ加工におけるPCD工具の利点
アルミの加工では超硬エンドミルでも十分にきれいな面は得られますが、PCD工具であれば、それをさらに長時間安定して続けられます。
• 切粉の溶着防止:アルミニウムは加工中に切粉が刃先に溶着しやすい性質がありますが、PCD工具は滑らかな刃先を持ち、この溶着を抑制します。その結果、加工面の品質が向上します。
• 長寿命と高精度:PCD工具は非常に高い耐摩耗性を持つため、工具寿命が長く、交換頻度が少なくて済みます。また、精度が安定しているため、大量生産にも対応可能です。
PCD工具と鏡面加工
注意点として、ダイヤモンド工具の中でもPCDは鏡面仕上げには対応していません。
とはいえ、滑らかで高品質な加工面を実現することが可能で、記事後半でご紹介するHORN社の製品でも、アルミ加工において均一で光沢のある表面を得るための設計が施されています。
PCD・ダイヤモンド工具メーカーのおすすめは?
PCD工具市場には多くのメーカーが存在しますが、その中でも当サイトでは、高い工具品質と剛性に定評がある、HORN社をおすすめしています!
本項では、HORN社の簡単な紹介と、代表的なPCDエンドミルのラインアップについて詳しく解説します。
HORN社
HORN社は、ドイツを拠点に、溝入れ工具を中心とした精密切削工具の開発・製造を行うメーカーです。その製品は、高剛性・高精度を強みとし、航空宇宙、自動車、医療機器などのさまざまな分野で採用されています。
標準品ラインアップの豊富さ
HORN社の最大の特徴は、豊富な標準品ラインアップにあります。私の経験上、溝入れ工具のラインアップはどの国内メーカーより充実しています。同様にPCDエンドミルについても多様な製品を取り揃えており、加工現場の多様なニーズに応えることが可能です。
JIMTOF2024にも参加しましたが(下記事リンク参照)、本記事のテーマであるPCD工具も含め、年を追うごとにそのラインアップは増え続けており、信頼できる工具メーカーです。
高剛性・高精度の追求
HORN社は、高剛性・高精度な製品設計を徹底しています。工具の剛性を高めることで、加工中の振動「びびり」に大変強く、高品質な仕上がりを実現しています。この特性により、特に高精度が求められる部品加工で高い評価を得ています。
おすすめPCDエンドミル製品ラインアップ(HORN社)
HORN社のPCDエンドミルのラインアップは、溝入れ工具と同様に、持ち前の種類の多様さと工具品質の高さでおすすめできるものばかりです!
それでは早速、主要なモデルをご紹介していきます。
下表は、PCDエンドミルのラインアップです。工具刃先径は、小さいものではφ3、大きいものではφ32まで、多様な径に対応できることがわかります。
また、その形状も小径対応の2刃形状、耐びびり性能の高いねじれ刃など、さまざまなものから選べます。
エンドミルの形状については、下表から希望の加工ができるものを選択しましょう。
ここからはおすすめのラインアップについて、具体的にご紹介していきます。
2枚刃エンドミル システム「DM20」
まずご紹介するのは、2枚刃エンドミルの「DM20」です。
このエンドミルはφ3からと大変小径の加工に対応したPCDエンドミルです。これだけ小径でありながら、φ4から内部給油に対応したものもラインアップされています。
4枚刃エンドミル システム「DM25」
2枚刃よりさらに送り速度を上げたい場合、多刃エンドミル「DM25」がおすすめです。
刃数は径によって3〜6枚になっています。内部給油のあるRシリーズも、φ8からラインアップされています。
CFRP加工に特化した システム「DM27」
DM27シリーズは、HORN社のPCDエンドミルの中で、特にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に適したモデルです。この製品は、特徴的な見た目の通り、独自の「ポジ・ネガ配置」を採用しています。これにより、CFRPの繊維剥離を、材料上面は下向きに、材料下面は上向きにバリを抑えながら加工することができます。
特徴:
• ポジティブ刃とネガティブ刃の組み合わせにより、バリを極限まで抑えた仕上げを実現。
• 内部給油穴と高剛性ボディで高い耐久性を保持。
繊維方向に影響されやすいCFRP加工の課題に応える「ポジ・ネガ配置」はPCDエンドミルとして大変特徴的であり、他社には見られないHORN社の独自性が光る工具です。
高い壁の仕上げに最適な システム「DM30」
PCDエンドミルを構成するPCDはダイヤモンドであるため、「ねじれ」の工具形状を実現するのは容易ではありません。
ですが、エンドミルにおいて、ねじれをつくることはびびりの解消や切削抵抗の低減、寿命の延長のために重要なことです。
システム「DM30」では、PCDの配置を工夫することによってねじれ刃エンドミルを実現しています。これにより、高い壁の仕上げでもびびりを抑えながら加工することができます。
下画像のとおり、溝入れ加工は非対応ですので注意しましょう。
まとめ
PCDエンドミルは、その耐摩耗性や高精度が求められる加工現場で非常に有効な工具です。航空宇宙や自動車、電子機器産業など、幅広い分野で使用され、特にCFRPやアルミニウムといった難削材や軽量素材の加工において優れた性能を発揮しています。
一方で、鉄系材料への不向きや高コストといった課題もありますが、それだけの寿命の長さと安定性が見込め、加工現場での信頼性を支えています。
本記事では、おすすめのPCDエンドミルとしてHORN社のものをご紹介しました。豊富なラインアップと独自の設計によって、さまざまな加工ニーズに応えることができます。
特にDM27シリーズは、ポジ・ネガ配置の刃先設計により、CFRP加工での繊維剥離を抑え、滑らかな仕上げを実現するなど、他社にはない特長を持っています。
PCDエンドミルは、一般的な金属加工ではあまり使う機会はありませんが、適材適所で活用することでその真価を発揮する、一点特化型の工具です。
特にCFRPにおいては、作業効率や仕上がり品質を大幅に向上させることができるでしょう。バリや安定性で悩んでいる方は、ぜひ一度試してみてください!
HORNは工具選定の電話相談も可能
海外メーカーというとサポート面が不安なイメージもありますが、HORN社は下記の電話窓口より、国内の工具メーカーと同様に電話で技術相談を受け付けている点もおすすめできるポイントの一つです。
電話番号も以下に掲載しておきますので、ぜひご活用ください!
→HORN工具に関する技術相談窓口(IZUSHI 刈谷テクニカルセンター)TEL:0566-62-8075
またHORN社では、今回ご紹介工具に加え、アルミニウム(非鉄素材含む)加工用フライスカッターシリーズも多数ラインアップしていますので、ご興味があれば、お気軽に問い合わせてみることをおすすめします!